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福岡高等裁判所 昭和41年(う)41号 判決 1966年4月23日

被告人 竜和博

主文

原判決中被告人関係部分を破棄する。

被告人を懲役六月に処する。

原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入する。

銃砲刀剣類等所持取締法違反の点は無罪。

理由

弁護人山口親男が陳述した控訴趣意は、記録に編綴の同弁護人提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。

右控訴趣意第一点(事実誤認)について

しかし、原判決挙示の関係証拠によると、被告人及び原審の相被告人田中武実、同古賀義勝はかねて世話になつている下川正浩の自動三輪車を修理先から引きとつて帰る途中、昭和三九年一〇月二七日午前〇時頃野田幸信ら三名と喧嘩し右自動三輪車の窓ガラスを割られたことで、同人らに弁償させるため、夜が明けてからその所在を求めていたところ、右田中及び古賀において、野田らが福岡県山門郡三橋町大字藤吉柳川電報電話局で作業しているのを見つけ、これらと弁償のことで話をはじめたが、らちがあかぬので、いつたん柳川市細工町二三番地の右下川正浩方に戻り、被告人をまじえて三人で野田らを下川方まで連行し話をつけることを相談し、同日午後二時五〇分頃被告人ら三名はタクシーで前記柳川電報電話局の作業場に至り、同局裏ベランダ附近で前記野田に対し田中において下川方までの同行を求めたが拒否されたため、所携の匕首様の刃物を突きつけ野田が逃げるとこれを追い、被告人において相手方が逃げないように外で見張りをしたりしているうち、遂に田中が右電報電話局南側出入口附近で野田を捉え、古賀とともに野田の腕を掴まえ、被告人はその後方からこれを監視しながら同局通用門附近に至り、田中が同所に待たせてあつた前記タクシーの後部座席に野田を引き入れ、その左右に田中と被告人が乗りこんで同人の腕を捉え逃げられないようにして同所から約五七〇米離れた前記下川正浩方に連行した上、田中、古賀及び被告人は同家八畳間において野田をとりかこみ、こもごも自動三輪車の窓ガラスを割つたことを問責し且つ脅迫的言動を弄したが、被告人はその間警察官が来ることをおそれて表で若干の時間見張りをしたりなどして同人を退去できないよう監視して、同人の自由を拘束し同日午後三時二〇分頃警察官に発見されるまで継続して不法に同人を監禁した事実を認めることができる。右によつてみれば、被告人が野田幸信を不法に逮捕し監禁することについて田中武実、古賀義勝と共謀していたことは明らかであつて、記録を精査しても、原判決には所論の如き事実誤認は認められない。論旨は理由がない。

同第二点(法令適用の誤)について

惟うに、昭和四〇年法律第四七号による改正前の銃砲刀剣類等所持取締法第二二条にいわゆる携帯とは、把持の形態の一態様であつて、所持よりも狭義の概念に属し、手に持つか、身体に帯びるが如く、直接的に人の身体に結びついて直ちにこれを使用しうべき支配状態に置き、且つこの状態を持続する行為を指すものと解するを相当とする。

これを本件についてみると、原判決挙示の関係証拠、就中、被告人の司法巡査に対する昭和三九年一〇月二八日付、司法警察員に対する同年一一月六日付各供述調書、田中武実の司法巡査に対する昭和三九年一一月四日付供述調書によると、被告人は昭和三九年一〇月二七日午前〇時頃柳川市隅町七二番地三九ラーメン屋こと吉岡勝方前での喧嘩闘争にあたり相手方を脅かすつもりで右吉岡方奥の炊事場にあつた刺身庖丁を持つて同所から約六米ばかりの同家表出入口附近まで来たところを田中武実に発見されこれを取り上げられたことが認められる。原判決は被告人が刺身庖丁を手にしていたのは右吉岡方前路上と認定しているが、これを認めるに足る証拠はなく、この認定は結局事実の誤認と同視すべきものであるけれども、この程度の事実の誤認は原判決に影響を及ぼすものではないから原判決破棄の理由とはならない。しかしながら、叙上認定のように、被告人は相当の時間右刺身庖丁を手に持つておく意思があつたとしても、現実にはこれを手にしていたのは瞬間的な極めて短時間で、しかもこれを手にしてから屋内を距離にしてわずかに六米ばかり移動したに過ぎないものであり、該庖丁に対する支配状態が持続されたと認めるには充分でないので、これを目して同法条に規定する携帯に該当するものとは解し得ないから、原判決が被告人に刺身庖丁携帯の罪の成立を認定したのは法令の解釈適用を誤つたものというべく、この誤りは原判決に影響を及ぼすこと明らかであるから原判決は破棄を免れない。

そこで当裁判所は弁護人の控訴趣意第三点(量刑不当)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条第一項、第三八〇条に則り原判決中被告人関係部分を破棄した上同法第四〇〇条但書に従い更に判決する。

原判決の確定した被告人関係の第二の事実に法令の適用をすると、被告人の所為は刑法第二二〇条第一項、第六〇条に該当するので所定刑期範囲内において被告人を懲役六月に処し、同法第二一条により原審における未決勾留日数中三〇日を右刑に算入することとする。

なお、被告人に対する公訴事実中、被告人が業務その他正当な理由がないのに昭和三九年一〇月二七日午前〇時頃柳川市隅町七二番地三九ラーメン屋こと吉岡勝方前路上において刃渡約二三センチの刺身庖丁一本を携帯した点についてはさきに弁護人の控訴趣意第二点について説明したとおりであつて、その証明十分でないから刑事訴訟法第三三六条に従い無罪の言渡をする。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 岡林次郎 山本茂 生田義二)

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